vol.2「広島大学での学びから研究人となるまで。それぞれの歩み。」

「酵素という共通の研究対象の解明に分子レベルで取り組む。」

藤川 愉吉
藤川 愉吉
フジカワ ユキチ
酵素化学研究室 講師
2008年3月1日〜2012年3月31日
広島大学大学院生物圏科学研究科/生物生産学部 助教
2012年4月1日〜
広島大学大学院生物圏科学研究科/生物生産学部 講師

藤川先生:今日は、同じ酵素化学研究室で研究を続けている者同士で対談するという、少々気恥ずかしいような場になりましたが、これまで意外と話せていないようなところまで話がしてみたいと思います。では、よろしくお願いします。

末川さん:よろしくお願いします。

藤川先生:2人とも生物生産学部から大学院生物生産学部へと進んできたのは同じだけど、私の場合は、細胞生理化学研究室(現:水族生化学)というところで博士課程まで学んで、その後、他大学で研究員として研究を続けていたときに、いまの酵素化学研究室で助教の公募があり、採用されていまに至っています。

末川さん:藤川先生はもともとは、魚の酵素の研究をされていたんですよね。

藤川先生:そうそう。真鯛の消化酵素の生化学的な研究。酵素の性質とか、発現時期などに関する研究をやっていました。ちょうどその頃、私の指導教員であった飯島憲章先生(※1)と酵素化学研究室の江坂宗春先生(※2)が共同研究をされていたんですよね。分子生物学的な、分子レベルの研究であれば、魚でも植物でも実験手法が似ているのでね。だから、まったく交流のないところにやってきたというのではなくて、以前から関わりのあった研究室でしたから、いまは、酵素の分子生物学的な研究を魚から植物に変えてやっているという感じですね。また、研究員の頃には、細胞内の生体システムに関する研究で、タンパク質間相互作用のアッセイの開発をやっていたんですよ。植物の生きた細胞の中で、タンパク質同士がくっついたり離れたりする、それをうまく検出できないかというような研究をやっていたので、植物に関わりがあったといえばありましたね。それで今は、植物の酵素を利用して環境ストレスに強い植物の作出に関する研究を行っています。

末川さん:そうなんですね。私はもともと環境問題に興味があって、環境問題を解決できるような研究をしてみたいっていう漠然としたイメージがありまして。その一つが、植物のストレス耐性。例えば、砂漠でも育つ植物や塩害土壌で育つ植物ができるとか。そういったストレスに強い植物の研究をしたいと思って、江坂先生のところに行かせてもらいました。

藤川先生:学位論文は、まさにその路線でしたね。

末川さん:はい。『トマトにおけるアルド-ケト還元酵素の生理機能と遺伝子発現機構』という題目で書かせていただきました。塩や酸化ストレスによってこの酵素遺伝子がたくさん発現するということはすでに分かっていることでしたが、それに着目して、この酵素がストレスによって発現してどんな働きをしているのか、また、どのようにしてストレス応答的にたくさん遺伝子発現するのかを解析するという内容です。

末川 麻里奈
末川 麻里奈
スエカワ マリナ
2015年4月1日〜2017年3月31日
大学院生物圏科学研究科 Research Assistant
2017年4月1日〜2018年3月31日
日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2018年3月23日
広島大学大学院生物圏科学研究科 博士課程後期 修了(博士(農学))
2018年4月1日〜
広島大学大学院生物圏科学研究科/生物生産学部 助教

藤川先生:生物生産学部の5コースのなかで、うちの研究室は「分子細胞機能学コース」に属しているんですよね。だから、その名のとおり、分子に興味があるというのが共通項じゃないかな、私と末川さんの。

末川さん:そうですよね。植物栄養生理学の研究室がある「生物圏環境学コース」に進んでいたら、もっと大きな範囲というか…。

藤川先生:植物栄養生理学の研究室では、植物の機能や特徴について分子や細胞レベルだけでなく、フィールドレベルでの研究もおこなっていますね。よく言われるのは、植物栄養生理学の研究室はアウトドアで、うちは…

藤川先生末川さん:インドア派(笑)。

末川さん:基本的に室内でやってますよね(笑)。植物をやっているのは、分子細胞機能学コースだとうちだけですものね。生物生産学部って、入学してきた時は、コースが分かれていなくて、2年生の後期に分かれますよね。だから1年半、すごく広い範囲で学んでから、このコースに行きたいなっていうのを自分で選んで進んでいくことができる。それが私は、この学部の魅力の一つだと思っています。

藤川先生:生物生産学部では実際にいろんな講義を受けてみてから、自分の興味がある方向に進めますからね。

末川さん:それに、農学って、自分の興味のあるところだけを学んでもだめだと思うんですよ。いろいろ広い範囲で学んでから研究に入らないと。例えば、自分が植物の研究をするから植物だけ学べばいいやじゃなくて、植物も地球の、いろんな環境の中の一部分でしかないので、全体のいろんなことを学んでから、さらに専門化して学べるっていうのは、学生にとって大切なことだろうと思います。

「研究の醍醐味とは。研究者に必要なことって何だろう?」

末川さん:藤川先生は、研究のおもしろさをどんなあたりに感じていらっしゃいますか?私は、ありきたりだとは思うんですけど、やっぱり、誰も知らないことを自分で初めて見つけられるというところが、すごくおもしろいなって感じているんです。ただ、なかなか実験がうまくいかないことがあったときに、他の先生方からお話を聞くと、「思っていた結果と違う結果が出たときの方が楽しいんだ」って、ある先生はおっしゃるんですね。「何でですか?」って尋ねると、「その方が、簡単には分からないような、想像がつかないような、別の何かがあるかもしれない。そこからまた新しい発想が生まれるから。簡単には想像できないようなことを明らかにすることができたら、そっちの方が楽しいよね」ってその先生はおっしゃってて。藤川先生はいかがですか?

藤川先生:私も基本的にはそうですね。期待した結果が出れば、それはそれで達成感がありますけど、予期せぬ結果も出たりするので。その時は、これは何だろうって感じでまた考える。だから、研究というのは、ずっと悩むことですかね、ははは(笑)。学生実験とかだったら、基本的にうまくいく。うまくいくことをやってるので。でも、研究は、苦労することが多いんと思うんですよ。その時に、その苦労を否定的に感じてたら、多分なかなか難しいと思う。人から見たらあの人大変だなぁとか思われてても、自分がそう思っていなかったらいい。あとは柔軟性のようなものが必要なんじゃあないかな。でも、単に楽天的ではいけないんですよ。一生懸命やらないといけないんですけど、それが大変だとか、やっぱり苦労してるとかって感じに思ってると、向いてないんじゃないかなぁという気もしますね。

末川さん:そうですね。先生がさっきおっしゃっていたみたいに、実際の研究って、なかなかうまくいかないことばっかりなので、すぐに投げ出さないというか、続けていく、忍耐力のようなものでしょうか。逆にそんなすぐ簡単に結果がでることって、多分、おもしろくないと思うんですよね、研究として。だから、悩みながらずっと継続していくことで、すごくおもしろい結果が出てくると思うので、やっぱり研究していくには、すぐに諦めずに継続していくっていう能力が必要なのではと思います。

藤川先生:まぁおそらく、研究室に入ると、実際、ある程度の環境ストレス耐性が備わると思いますよ(笑)。

末川さん:そうですね、私自身もやっぱり、研究室に配属されたばかりのときよりも今現在の方が耐性がついてきた気がします(笑)。研究室に配属後すぐは、研究の進め方も全然わからないので、先生に、次はこれやってねって言われたことをやって、出た結果を先生に持って行って、じゃぁ次はこれしようかっていう流れが多かったんですけど、マスター、ドクターと学年が上がるにつれて、実験して、自分で考えて、自分の考えを持って先生のところに相談に行けるようになったりとか。研究を進めていく上で、最初はほぼ先生主導でやっていた部分が、段々と自分でも考えて、自分でもちょっとこういうことをやってみようかなと、自分主導にちょっとずつシフトしていきました。それに伴って、研究っておもしろいなって感じる部分は大きくなっていったように思います。私もようやく、研究の醍醐味や研究者に必要なことが何なのか、少しずつ分かってきたというところでしょうか。

「バックアップが頼もしい!広島大学ならではのサポート。」

藤川先生:末川さんは、「広島大学エクセレント・スチューデント・スカラシップ」成績優秀学生(※3)に2年連続で選ばれたりするほど、本当に優秀な学生さんですよね。

末川さん:いえいえ、そんな。でも、おかげさまで、2016年、2017年と連続でいただけました。これも日頃のご指導のおかげだと感謝しています。ありがとうございます。

藤川先生:いえ、私はなにも。でも、末川さんは普段からとても熱心で、真面目ですからね。それだけじゃなくて、研究に興味を持って主体的に進めてくれるところが良いと思うんですよ。例えば、学生が見落としていることをアドバイスしてくれたり、責任感を持ってやってくれているので、安心して任してられる。しかも、さっき話したような、研究で辛い時期でもうまく息抜きができたりするしね。実を言うと、研究室に入って来る前から他の先生方の評判も良かったんです。ただ研究室に入ってくるまでは、私は末川さんのことをあまり知らなかったんですよ(笑)。もちろん、認識はしていましたけど、接する機会がなかったので、そういう資質のようなところまでは知らなくて。でも、うちの研究室に入ってきたら、よその先生から「なんでうちの研究室にこなかったの」なんて言われていたりして、認識を新たにしました。また、学部生のときは良かったけどということもあったりするけど、末川さんの場合は、未だにずっと評判が良いままなので。本当に優秀で、評価も高い。まさにエクセレントですよね。

末川さん:なんだか恥ずかしいですね。

藤川先生:うちの研究室はある程度、学生の主体性を求めているでしょう?もちろん、指導はしますが、基本的には本人次第です。だから、いろいろな表彰も、本人の努力なんだと思いますよ。本人の資質の部分が大きい。ご指導の賜物です、なんて私に言われても、そんなことは全然ないという感じです、本当に。

末川さん:でも、うちの研究室は、さっき先生もおっしゃっていたように、結構、自主性を重んじて指導してくださるので、自分の研究を次はこうしてみたい、というようなことについて、自分で考える機会をすごくいっぱいいただきました。それによって、研究っておもしろいなと思えた部分もあります。ですから、この研究室を選んで良かったなと思っています。

藤川先生:研究室の雰囲気もいいんじゃないかな?酵素化学研究室のもう一人の先生である江坂先生はお顔にお人柄がにじみ出ていますよね。

末川さん:本当に、いつも笑顔でいらっしゃいますよね。江坂先生は親しみやすいですし、藤川先生も何事も親身になって話を聞いてくださる先生だと思います。だから、研究の相談もしやすいですし、本当にちょっとしたことでも、これどうなのかなぁてすぐ話に行けるんですよね。研究以外のことでももちろん話しやすいです。でも、いつも誰かが先生のところにいるので、なかなか話せなかったりするのがちょっと困りますけど(笑)。

藤川先生:みんな仲もいいし、いい研究室ですよね。さて、末川さんの話に戻しますと…。末川さんは、エクセレント・スチューデント・スカラシップで、学資の負担もかなり軽減できたんじゃないですか?

末川さん:はい。栄誉に加えて、半期分の学費をいただきました。私はそのほかに、TA(※4)やRA(※5)にも採用していただきましたし、日本学術振興会の特別研究員DC2(※6)にも採用していただきました。TAやRAでの学費支援と特別研究員の研究奨励金などのおかげで、経済的な負担が大きく軽減されましたので、気持ちのうえでも随分楽になって、研究に打ち込むことができましたね。こうしたサポート制度はとてもありがたかったです。

藤川先生:末川さんは、特別研究員の任期を残して、この春から、うちの研究室の助教に就任されましたね。おめでとうございます。

末川さん:ありがとうございます。よろしくお願いします。

藤川先生:こちらこそ。しかし、末川さんの場合もそうだけど、研究者になるのに必要なことって、チャンスをうまく活かせるということも大きいと思うんですよね。ちょうどこのタイミングで、しかも応募してみようかって思えるだけの実績があって応募できて、そのチャンスをゲットできたということなので。突然にチャンスがやってきて、そのときにチャレンジできることが肝心なんじゃないかと思うんですよ。

末川さん:なるほどですね。藤川先生もうまくチャンスを活かされたんですよね?

藤川先生:そうそう。私の場合もそんな感じで(笑)。末川さんがここに助教として来てよかったと思えるように、これからますますいい研究活動を行っていかなければと感じているところです。

末川さん:お気遣いいただきましてありがとうございます。私も有意義な経験となるように、大切に過ごしていきたいと思います。

藤川先生:大学のほうでも、『広島大学知のフォーラム(※7)』という、さまざまなトップ研究者を招致するようなイベントを実施していますから、同じ研究者として我々も、より高みをめざして進んでいきましょう。

「目指すのは、何かの一助になる研究。そこに酵素が役立つ。」

藤川先生:今後は研究者として、どんなところを目指していきたいと思いますか?

末川さん:そうですね。もともと研究に興味を持ったきっかけが環境問題で、環境問題をどうにかしたいという思いをもっているので、今後は、その解決に結びつくような研究成果を得て、それを、社会にどんどん還元していけるような研究をしていきたいですね。やはりそうした目標を大切にしていきたいと思います。自分の研究成果を活かして、世の中の役に立てるような研究者になりたいです。

藤川先生:やっぱりそういう風に、社会の一助になる、少しでも役に立てばっていうところがありますよね。ただ、研究というのは一人だけでは無理なんですよね、やっぱり。実際、広島大学では、植物の研究者が集まって、グループ(※8)を作ってるんですよね。その中に私とか、江坂先生とかも入って一緒に研究してるんですけど、やっぱり、一人ひとりでは成果も知れている。そこで、みんなが集まって、なにかしらの成果が出せたらと頑張っている。研究者ってそういうイメージですよねぇ。

末川さん:そうしたお話はよくお聞きしますね。藤川先生も環境問題を意識されていらっしゃいますよね?

藤川先生:もちろん環境問題もありますし、食糧問題にも関係してくる。世界的に見ると、作物は環境ストレスによって収量の半分くらいは失われています。環境ストレスに強い植物ができれば、例えば、今まで50%失われているものが20%になったりする。それだけでも、食糧問題に多少役立つんじゃないかと思いますね。酵素というのは、生体内で行われている化学反応を助けてくれる存在で、酵素がなかったら基本的に我々は生きていけない。この酵素の性質をうまく利用して、植物の機能を強化できて、食糧問題や環境問題の解決に、すこしでも役立てればと願って研究しています。

末川さん:酵素化学研究室は、海外との共同研究もさまざまにされていますよね、アメリカやドミニカ共和国などと。学生の間はそうした研究にはなかなか関われませんでしたけれど、これからは、そうした研究にも参加させていただければうれしいです。

藤川先生:是非!参加してもらえれば、こちらとしても心強いですよ。これまで酵素化学研究室では江坂先生と一緒に研究をしてきましたが、これから3人ですので、さらに研究が進んでいくと思います。
では、今日はこのあたりで。いろいろ話せてよかったですね。今後ともよろしく。

末川さん:こちらこそ、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!

【取材日】平成30年2月15日

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※注釈

1) 飯島憲章:広島大学名誉教授。2014年定年退職。
2) 江坂宗春:大学院生物生産学部 酵素化学研究室 教授。「教授に聞く」インタビューはこちら
3) 広島大学エクレセント・スチューデント・スカラシップ:こちらを参照。
4) ティーチング・アシスタント:こちらを参照。
5) リサーチ・アシスタント:こちらを参照。
6) 日本学術振興会の特別研究員制度:こちらを参照。
7) 広島大学知のフォーラム「広島大学から世界へ〜世界のトップ研究者に聞く」:こちらを参照。
8) 次世代を救う 広大発 Green Revolution を創出する植物研究拠点:こちらを参照。