島田 昌之 教授に聞きました!
 
「生殖」にはいまだ分からない不思議がたくさんある。動物ごとに異なる子どもの数。生まれないさまざまな原因。そこにある“いずれの生物にも共通する重要なもの”を見つけることによって、家畜の生産性向上に貢献し、ヒトの医療への寄与もめざす。
 
哺乳類の排卵と受精の仕組みを徹底的に解明する基礎研究。
 
  島田先生の専門は家畜生殖学。研究室で中心となっているのは、遺伝子改変マウスを使った、排卵と受精の仕組みについての研究だ。

「動物によって1回のお産で生まれる子どもの数が異なります。ウシはだいたい1匹で、ネズミは10匹くらいで、ブタは品種改良の結果、多いものでは20匹以上。これもすべて卵が何個排卵されて、その卵がちゃんと受精するかということで決まります。
しかし、なぜそう決められているかが分からない。何匹生まれるかは排卵にかかっている。そこで、子どもが母親からどうやって生まれてくるか、つまり、排卵から受精がうまくいく仕組みを解明しようというのが、私たちの研究です」。

島田先生はこの研究に15~16年携わっているが、もともと広島大学では、こうした研究をネズミではなく、豚の卵を使ってやっていたそうだ。
 
「現在、遺伝子改変マウスを使っているのは、たまたまこうなったという“現象”ではなくて、この遺伝子がなくなるとこうなるという直接的証拠が解明できるからなんです」と島田先生。

このマウスによる研究は、2004年から2005年にかけて、島田先生が文部科学省の在外研究員としてアメリカに留学した際に共に働いた、アメリカ人の内分泌の研究者からもたらされたものだ。
「牛や豚の研究をバックグラウンドに、マウスを使った基礎研究が融合されて、広く家畜に応用していこうという今のスタイルができました。

うちの研究室の場合、遺伝子がどう働くかというところを分子内分泌的に解析していて、こうした分野では世界的に見ても先端をいく研究だと自負しています」。
 
 
豚の凍結精液を用いた人工授精技術の開発で、いくつもの特許を取得。
 
  さらに島田先生を有名にした研究がある。それが『豚の凍結精液を用いた人工授精技術の開発』だ。

「ウシの場合、凍結精液を使った人工授精は100%普及しているのに対して、ブタはほぼ0%。その原因はどれだけうまくできるかという成功率の差でした。ウシの場合は1回で1匹生まれればよいので成功率は50%。○か×です。しかし、ブタの場合は、10匹以上だと○で、妊娠しないと×、その他に3~4匹生まれるという△という結果もある。しかも、良いのは○△×の順ではなくて、○×△の順。

何故かというと、ブタは120日の妊娠期間で10匹産めるポテンシャルがあるのに、3匹では生産性のロスが生じるため、むしろ×という結果ですぐに再チャレンジできるほうがいい訳です。>
 
ブタはこの△の状態が多発して効率が悪いことから、普及率は0%という状態だったんです」。

島田先生たちの研究チームが作り出した技術では、妊娠率80%、1回に平均10匹以上の出産を可能にするという。これは、広島大学と大分県農林水産研究指導センターとが共同研究しているもの。
複数の特許技術を開発し、大学発ベンチャーも設立して、いまでは広く農業従事者に役立てられているそうだ。

島田先生によれば、こうした動きは同研究室の社会的使命のひとつでもあるという。「大学内での研究を社会に還元する、いわば社会に貢献する研究をしていくということはとても大事なこと。
生産業者の喜びの声を聞くことも、この仕事のやりがいのひとつです」。
 
 
生殖のサイクルの全容を独自のスタンスで解明したい!
 

  「マウスによるメス側からの研究と、ブタによるオス側からの研究、この両者は生殖というサイクルの中でつながっている。バラバラにやっていると分からないこともあるので、これからも両方を連動して研究していきたいと思っています」と島田先生。

めざすのは生殖の仕組みの徹底解明。それが解明されれば、家畜の繁殖障害の原因を追究できるとともに、ヒトの不妊の原因解明にも応用できるそうだ。実際、不妊治療の病院で働いている卒業生たちも多いとのこと。

さらに、こうした最先端の研究を一緒にやることで、高度な科学技術者を養成するのが島田研究室のめざすところという。「固有のアプローチや切り口の研究を行うことによって、卒業生たちも『広大の島田研究室出身ですね』と周りから言ってもらえるようになるはずですから、そうした自分たちのアイデンティティを確立した研究を進めていきたい」と先生は言う。

「広島大学は、学部を超えて、専門の人と一緒に研究ができるなど、これをやりたいと思った学生にとって、“可能性を自ら創っていける大学”だと思います。学んだ分野だけでなく、科学者として幅広く通用するチカラをここで磨いていって欲しいですね」。
 
島田 昌之 教授
シマダ マサユキ
生物圏科学研究科 生物資源科学専攻 家畜生殖学研究室 教授

2000年4月1日~2002年3月31日 広島大学生物生産学部 助手
2002年4月1日~2006年3月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 助手
2006年4月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授
2007年4月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授

2017年4月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授

2013年9月20日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦