櫻井 直樹 教授に聞きました!
 
日本人はおいしいものを食べたいという欲求がとても強い。そのために、果物にも外から内部の品質を知る方法が求められてきた。当たり外れの多い日本の果物だが、誰もが当たりを選べる時代がもうそこまで近づいている。
 
「税金の無駄遣い」と母に酷評されて奮起!切らずに熟度を知る方法を徹底研究。
 
  櫻井先生の専門は植物生理学。これは、植物の生きている仕組みを知る学問という。先生の研究の中でも特に有名なのが、「果実の品質を非破壊で測定する技術の開発」だ。

これまでにも、おいしいかどうかを調べる方法はいくつかあった。当初は糖度のみを画像解析や近赤外線による透過で調べていたが、光を通さない果物があったり、熟しすぎのものが省けないなど、満足のいく方法ではなかったようだ。一方で食べ頃、すなわち適熟の果実には適度な硬さがあることは昔から知られていて、果肉に棒を差し込んで調べる方法は現場で昔からあったという。しかも、「こんなに丁寧にやっているのは日本くらいですよ」と櫻井先生。

先生によれば、「それほど日本の消費者というのは、おいしいものを食べることに貪欲」なのだそう。もっと有効な方法がずっと求められてきたのである。
 
一方で、櫻井先生は約20年前にトマトの研究のために渡米し、1年間さまざまな技術を学んだ。研究の場となったのはカリフォルニア大学デービス分校。その地域は世界の加工用トマトの1/4が生産される一大産地であったため、トマト研究が盛んに行われていた。

先生は、「トマトの熟度を物理的に評価して欲しい」と言われ、トマトを切って針を刺し、生じる抵抗を数字にして論文にまとめて帰国。
意気揚々と戻った先生がお母さんに米国での仕事ぶりを話したところ、「そんなことは毎日トマトを切っている私は知ってる。切って分かるようなことを難しい数字に表したりするのは税金の無駄遣いだ」と切り捨てられた。

そこで先生は、なんとか鼻を明かしたいと、次なる研究に挑んでいくこととなったのである。
 
 
出合いに導かれた、果物の食べ頃を硬さから知る“非破壊”による判定技術。
 
  その後、先生は直感で「音」ではないかと考え、音を聴かせたり当てたりしてマイクで拾うという方法をスタートさせた。

論文にまでまとめたものの、なんだか続けていくのには気持ち悪さが残っていて、もうやめようと思っていた時に、ある学会でのポスターセッションで、某企業の方から声をかけられたという。

「先生は何をされたいのですか」と尋ねられて回答したところ、「いい方法があるかもしれません。帰ったら資料を送ります」との返事。

果たして後日、数センチ厚もの資料が届き、その中に「音ではなく、振動ではないか」とあり、振動を測るならこういう装置がありますよ、と資料が添えてあった。これが、レーザードップラー装置との出合いだった。
 
振動をさせるとどんな物体でも共鳴をして、それぞれの共鳴周波数というものが存在する。確かにこれを使えば、果物の硬さ、さらには熟度が分かる。必要な数式はずっと前に物理学者が作っていたので、それを応用すればいい。これはいい技術だと研究を始めたのが1994年頃。以来、先生は20年近くこの研究を続けている。

「この振動技術というのは、生物の内部の情報を取り出すよい方法なんです」と櫻井先生。振動技術は日々発達しているが、果物への応用はこれまでになく、判定技術をここまで進めてきたのは櫻井先生が世界で初めてという。

先生はこの研究成果を元に、2005年には、広島大学内のベンチャービジネスラボラトリーで(有)生物振動研究所を興し、翌年には先輩にあたる教授とともに、山本科学興業(株)も設立。レーザードップラー装置と同等の精度を持つ小型装置を開発している。
 
 
この技術を日本の農業に役立てたい。ジャパン・ブランドの確立にもひと役。
 


  この研究の醍醐味を先生はこう語る。「自分で開発した技術がこんなことにも役立ちますよ、と他人から教えてもらうのがどれだけ嬉しいか。自分では予測しなかった新たな驚きを発見できるのが非常に楽しいですね。いろんなものを測りながら、毎日ワクワクしています」。

さらに、「近いうちに、いつからいつが食べ頃というのを表示した『食べ頃シール』が貼られたキウイやアボカドがスーパーの売り場に並ぶようになるでしょう。あるいは、目には見えませんが、私の振動技術を使って選別や育種が行われたスイカが市場に出回ったり。匂いや色ではまったく熟れ具合が分からないラ・フランスなどにも今後力を入れていきたいですね」と櫻井先生。先生の研究成果に触れる時はそう遠くない未来にやってきそうだ。

また、先生の技術を使えば、ジャパン・ブランドの確立や農産物の輸出も可能になる。「適熟が分かれば、廃棄率が減り、消費も伸びる。引いては、生産者の努力が報われるわけです。そういうシステムを作って、“攻める農業”に資することができればと思っています」。
 
櫻井 直樹 教授

サクライ ナオキ
国立大学法人 広島大学大学院 植物環境評価論研究室 教授

1980年8月1日~1988年9月30日 広島大学総合科学部 助手
1988年10月1日~1993年3月31日 広島大学総合科学部 助教授
1993年4月1日~2006年3月31日 広島大学総合科学部 教授
2006年4月1日~ 広島大学生物圏科学研究科 教授

2013年3月28日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦