広島大学大学院 統合生命科学研究科
カバー写真:教員インタビュー 研究を語る 小池一彦教授

海の変化を見つめ、豊かな未来につなぐ。

私が研究者になったきっかけは、「海が好きだったから」です。高校生の頃にスキューバダイビングを始め、大学時代は休みのたびに沖縄へ通っていました。当時の沖縄の海には美しいサンゴ礁が広がっていて、その豊かさに魅了されました。しかし、その後同じ場所を訪れるたびに、サンゴ礁が少しずつ失われていく様子を目の当たりにしました。「海で何が起きているのだろう」「なぜ海は変わってしまうのだろう」。その疑問が、現在の研究につながっています。

私の研究テーマは、植物プランクトンやサンゴに共生する褐虫藻など、海の中の小さな生物です。植物プランクトンは顕微鏡でなければ見ることができないほど小さな存在ですが、海の生態系を支える重要な役割を担っています。植物プランクトンが豊富に存在する海では魚介類がよく育ち、豊かな漁場が形成されます。私はこうした微小な生物の働きを通して、海洋環境の変化や漁業生産との関係を明らかにしたいと考えています。

広島大学に着任してからは、瀬戸内海を主なフィールドとして研究を続けています。調査を進める中で感じるのは、「原因を知るだけでは十分ではない」ということです。海で起きている問題を明らかにするだけでなく、その成果を地域社会へ還元することも研究者の重要な役割だと思っています。そのため、漁業者の方々と協力しながら海底耕耘の研究を行ったり、赤潮の発生を予測する技術の開発に取り組んだりしています。研究成果が実際の漁業現場で活用され、地域に貢献できることは大きな喜びです。

また、研究の舞台は瀬戸内海だけではありません。沖縄のサンゴ礁やミャンマーをはじめとする東南アジアの沿岸域でも調査を行っています。豊かな海洋環境に恵まれた地域であっても、森林開発や気候変動の影響により海の環境は大きく変化しています。現地の研究者や地域の人々と協力しながら、その実態を明らかにし、将来の保全や持続的利用につなげることを目指しています。

研究の魅力は、まだ誰も知らない現象を発見できることにあります。そのためには机の上だけではなく、自分の足で現場へ行き、自分の目で見て、人の話を聞くことが欠かせません。海は今も刻々と変化しています。私はこれからも海の小さな生き物たちの声に耳を傾けながら、豊かな海を次の世代へ引き継ぐための研究を続けていきたいと考えています。

2026年10月29日掲載
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