山本 祥也 助教に聞きました!
 
健康が大きな関心事とされている現代。
有用な機能性素材オリゴDNAをもっと手軽に
役立てられるよう、ナノカプセル化し、
経口投与で疾患の予防・軽減につなげる。
未知の働きの開拓は続いていく。
 
免疫機能を刺激する微生物の構成成分を健康づくりに活用する。
 
  最近、「機能性素材」ということばをメディアでよく目にするようになった。機能性素材とは、人体に良い影響を与える効果を備えた素材のことだ。

山本先生は、微生物の構成成分を機能性素材として利用する研究をおこなっている。取り扱っているのは、細胞壁の構成成分や鞭毛(べんもう)の成分、DNAのような核酸成分などだ。

「皆さんは、微生物というと、病気の原因となる大腸菌のような悪いイメージがあるものだったり、乳酸菌のような良いイメージがあるものなど、さまざまに思い浮かべることでしょう。こうした微生物をバラバラにした構成成分の一つひとつは、それぞれ異なるメカニズムによって免疫機能を刺激することが知られているんですよ」と山本先生。
 
そもそも私たち哺乳類や魚類の体には、「免疫」という生体防御機能が備わっており、健康な状態を保とうとしている。しかし、この免疫のバランスが崩れると、風邪をひいたり、体内で腫瘍が育ってしまったり、アレルギーや炎症性疾患を引き起こすと言われているのだ。

「つまり、免疫機能を刺激する働きを持った微生物の構成成分をうまく利用すれば、私たちの健康づくりに活かすことができるんです」と山本先生は言う。

特に山本先生がサンプルとして扱っているのが「オリゴDNA」だ。山本先生によれば、オリゴDNAとは、細菌のDNA塩基配列に由来する機能性分子で、次世代の核酸医薬として注目されているとのこと。

「DNAというと、遺伝情報が書かれているのはご存知の通りですが、それだけではなく、微生物に由来するDNAを細胞にかけたり、動物に注射したりすると、免疫機能を制御し、さまざまな疾患を予防・軽減することが分かっています」。

オリゴDNAは、約20年前に発見されて以来、さまざまな疾患の予防や改善に役立つことが報告されており、山本先生の研究でも、ある種のオリゴDNAの注射によって、細菌感染がきっかけで起こる敗血症の重篤化を軽減することが分かっているという。
 
 
ナノカプセル化したオリゴDNAを経口投与し、世界初の成果に。
 
  さまざまな有用性が報告されているオリゴDNAだが、これまでメジャーだったのは、注射をしたり、鼻から滴下して生体に投与する方法だった。そこで山本先生は、「口から摂取する『経口投与』という方法で、同じ効果を再現できればおもしろい」と考えたとのこと。

「この研究を始めたのは修士の時代からでした。初めてオリゴDNAに出合ったときには、DNA自体が免疫機能を制御するなんて斬新だなぁと思って、以来、どんどんのめり込んでいきました」。

口から取ることができれば、ストレスなく生体に投与できる。しかし、残念ながら、オリゴDNAは酸やアルカリにかなり弱いという性質があり、口から腸に達する段階で、胃酸によって分解されてしまうという弱点があった。
 
「そこで、生体に害のないカルシウムを用いて、オリゴDNAをカプセル化することを思いつきました」。

その後の実験では、カプセル化したものを凍結乾燥して経口投与すると、胃酸に分解されることなく、腸の免疫組織へオリゴDNAを送り届けることができ、その活性も認められた。さらに、アトピー性皮膚炎のモデルマウスにオリゴDNAカプセルを経口投与したところ、その症状の改善も確認できたという。

オリゴDNAをカルシウム性ナノ粒子に包み込むというこの発明は、オリゴDNAの最大の弱点である「胃酸による分解」の問題を克服。さらに、過去の経口ルートで投与する研究では、採算を度外視した量を投与していたが、少量のカプセル化したオリゴDNAを長期間投与することで免疫機能を制御できた例として、世界初の研究報告となり、高い評価を獲得している。
 
 
DNAナノカプセルの開発
 
未知なるものを見つける瞬間を求めて。挑戦するこころをこれからも。
 

  「わたしの研究で、敗血症に効いたオリゴDNAは、数あるオリゴDNA配列の中から偶然見つけたもの、すなわち、偶然の産物です。ですから、オリゴDNAにはまだまだ魅力的な機能と使い方の開拓の余地があると信じています」と話す山本先生。

研究の醍醐味は、「まだ誰も知らない現象を見つけた瞬間を味わうこと」とほほ笑む。

そして、山本先生は現在、「オリゴDNAを家畜の飼料として利用すること」を目標に、研究を続けている。鳥インフルエンザや豚コレラといった家畜伝染病が問題になるなか、家畜の餌にオリゴDNA入りのカプセルを混ぜておけば、免疫力を常に高めることができ、感染症にかかりにくい体の状態をつくりだすことが期待できるという。

山本先生はさらに、多くの生活習慣病との関連が報告されている腸内細菌をターゲットとして、オリゴDNAの効果を実証したり、そうした作用の解明などにも挑んでいきたいと意気込んでいる。

「オリゴDNAをヒトや家畜の健康増進に役立てることを目標に、今後も研究に臨みたいと思います」と山本先生。
研究とあわせて、次世代で活躍できるようなエキスパートを世に輩出することもまた、もうひとつの大きな目標であると言い、次のような言葉で、若い世代の参加を呼び掛ける。

「私たちが健康に過ごすための環境は、ここ数年で飛躍的に進歩しました。さまざまな病気の予防法や治療法が確立され、人生は100年時代などとも囁かれています。しかしながら、世の中にはまだまだ解決方法の分からない病気もあふれていますし、詳細なメカニズムの全貌の解明も達成された訳ではありません。
研究というのはとてもマニアックで、時には根気の必要なものですが、科学の発展には、次世代のエネルギッシュな皆さんの力が必要不可欠です。その無限にあふれるエネルギーを研究に費やして、私たちと一緒に、誰も成し得なかったことを達成していきませんか」。
 
山本 祥也 助教
ヤマモト ヨシナリ
動物資源化学研究室 助教

2016年4月1日~2018年3月31日 日本学術振興会 特別研究員(DC2)
2018年4月1日~ 広島大学大学院統合生命科学研究科 助教

2020年1月29日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦