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一般には自給率の高い食品として知られる卵。農水省の発表では約95%だが、都築先生によると実情は異なるという。「実際には6%程度なんですよ。鶏肉も約70%と言われていますが、実際は2%未満。98%は輸入なんです」。この数字の違いを理解するために、鶏の系譜をたどってみよう。
小売されている「鶏卵」から順に遡ると、養鶏場にいる鶏が「コマーシャル鶏」、さらに「種鶏」、「原種鶏」、「原々種鶏」、「エリートストック」と分類される。このうちの主に「種鶏」がひよこの状態で輸入されているため、本当の意味での自給率は前述のような数値になるのだという。
「鶏インフルエンザなどが発生すれば、途端に輸入はストップしますし、地球温暖化による地球規模での気候変動によって疾病が起こりやすくなり、欧米系鶏の生産性の低下も予想されます。鶏肉も鶏卵も大切なタンパク源ですから、輸入に頼ったままでは大変なことになります。だからこそ、日本で優秀なエリートストックをつくり出す必要があるんです」と都築先生。
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日本にもいろいろな鶏がいるが、卵や肉を生産する能力は改良された鶏ほど高くない。つまり、日本には高性能な鶏がほとんどいないので、これをつくろうという訳である。「専門的には『育種』と言うんですが、従来のやり方は正確さと早さに欠けるんですね。
例えば卵の場合、産卵率の高い雌鶏を毎世代選び出す『選抜育種』という方法が一般的ですが、30~40年かけて何世代も続けていく必要がある。その間に気温や餌といった環境の影響も受けるため、不正確でもある。これを環境の影響を排除して、遺伝子をつかむことができないかと」。
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ここで登場するのが1990年代から可能になったQTL解析という方法だ。
都築先生はそれを使って、産卵率や産肉性といったニワトリの生産性を支配している遺伝子をつかむ研究を15~16年継続中。この研究に取り組んでいるのは日本の大学では先生のグループだけという。
「QTL解析は染色体のどこにどういう遺伝子があるかをDNA情報を利用して解明する解析法です。我々はその解析結果を使って、マーカーアシスト選抜による『DNA育種』を行おうとしています」。
ただし、QTL解析で分かるのは遺伝子のある場所、すなわち遺伝子座まで。さらに研究を進めると、どんな遺伝子があるかが分かり、その遺伝子情報を使って改良がより正確に迅速にできるようになるという。
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「私自身は1997年にQTL解析研究に着手して、これまでに700くらいの遺伝子座を発見しています。産卵率に関わるもの、肉付きに関わるものなど、それぞれ複数見つけているんですよ。また、体重変化については通常は生後7週くらいまでしか調べないんですが、ここでは生後64週まで調べています。20週までは1週ごとに、その後は1月ごとのスパンでやっていまして、これだけ長期間調べているのは世界中で他にありません。卵の大きさや重さ、黄味の色や大きさなどに関わる遺伝子座も発見していますから、現時点で学問的には一定の成果を得ていると言えるでしょう・・・。これだけの成果が得られたのは、研究材料に日本鶏を用いたことに依るところが大きいと考えられます。」と都築先生。
この成果を基に鶏の改良を行うことも可能なのだが、予算と人手が不足しているために、まだこれからなのだとか。さらに、遺伝子そのものの解明とその遺伝子情報を活用した鶏の改良の実践も今後の課題として残っているという。来たれ!大学院生!
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QTL解析では2つの異なる品種を交配し、子さらには孫を取り、3世代の鶏を全部まとめて解析するという。そして役に立つ遺伝子座が見つかれば、日本鶏に遺伝子導入するか、あるいは日本にいる優秀な欧米由来鶏に導入するという2通りが考えられるが、前者は時間がかかるため、効率が良いのは後者とのこと。
「予算があれば5~10年ほどで世に出せるものができ、改良を始めて20年ほどでエリートストックはできるはず。次世代シークエンサーなどを使えばさらにスピードアップできます」と先生は語る。
こうした研究の傍ら、都築先生は鶏の遺伝的多様性を調べたり、2010年からは「日本鶏資源開発プロジェクト研究センター」のセンター長としても活動している。同センターは大学内で鶏や鶉など約4000個体を育成しており、うち鶏は120種類にも上るそうだ。
「センターでは日本鶏の保護、遺伝的多様性の維持、日本鶏文化の継承等を図りつつ、優良国産原種鶏の開発をめざしています。センター内の施設は見学もできるのでぜひご覧ください。日本鶏の素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらいたいですね」。
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都築 政起 教授 |
ツヅキ マサオキ
国立大学法人 広島大学大学院 生物圏科学研究科 家畜育種遺伝学研究室 教授
1983年 名古屋大学 農学部 畜産学科卒業
1988年 名古屋大学 大学院 農学研究科博士課程修了
1989年4月1日~1990年3月31日 日本学術振興会特別研究員
1990年4月1日~1996年3月31日 大阪府立大学農学部獣医学科実験動物学講座助手
1996年4月1日~2002年3月31日 広島大学生物生産学部生物生産学科助教授
2002年4月1日~2004年9月30日 広島大学大学院生物圏科学研究科助教授
2004年10月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科教授
2006年4月1日~ 広島大学大学院国際協力研究科教授(併任)
2013年2月1日掲載
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