冨山 毅 准教授に聞きました!
 
水産資源はさまざまな要因から増減を繰り返す。
地球温暖化など環境変化の影響も鑑みながら
そうした事象のメカニズムの解明が急がれる。
生物が何を食べ、どう育つのか。
彼らの生活史を知ることが大きなカギとなる。
 
イカナゴの減少要因の一端を解明。成長期の餌不足が成長率・産卵量の低下を招く。
 
  私たちが食用として利用している魚介類の多くは野生生物であり、それら水産資源は増えたり減ったりしている。その変動機構を解明し、人間が持続的に水産資源を利用できるようにすることが、冨山先生の大きな研究目標である。そのためには、水産資源がどのような生物で、どのような環境を必要としているのかといったことをよく理解する必要がある。しかし、残念なことに、多くの生物についてはいまだわからないことだらけなのだと冨山先生は言う。

「最近では瀬戸内海でイカナゴ、タチウオ、カレイ類などが著しく減少していますが、その理由は実はよくわかっていません。そこで、瀬戸内海周辺の関係府県や国立研究開発法人と協力しながら、野外調査や飼育実験などを行い、瀬戸内海の魚たちの特性や減少要因を解明しようとしています」。
 
その一例が、水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所との共同でおこなった『瀬戸内海におけるイカナゴ減少のメカニズムに関する研究』だ。

瀬戸内海では近年、イカナゴの漁獲量は極めて低水準になっている。一方で、イカナゴの餌となる動物プランクトンの減少も示されているため、その相関を調べたところ、いくつかの可能性が見出されたとのこと。
「イカナゴの稚魚に十分に餌を与えた場合には、全ての個体が翌年に成熟してたくさんの卵を産むことができるのですが、餌が少ない条件で飼育すると、成熟しない個体が現れたり、成熟したとしても卵の数が少なかったりすることが分かりました。ほかにも考えられる仮説を検証すべく、研究を継続しています」と冨山先生。この研究成果は2019年に米国科学誌PLOS ONEに掲載された。
 
 
緯度間変異にも関心。幅広い取り組みから新たな発見を模索する。
 
  また、最近特に関心を持っているのは、『生物特性の緯度間変異』であると冨山先生は言う。

「魚類では、同一種でも場所によって成長特性が異なることがあります。例えば、北の魚はより大型になるが、水温が低いので、成長は遅くて寿命が長い、ということがよくあります。しかし、同じ水温環境で飼育すると北の魚の方が成長が速い、という例が知られています。これは魚類が分布を北(高緯度方向)へ拡げる際に獲得した特性と考えられます」。

ところが、その逆の事例、すなわち低緯度方向へ分布を拡げた魚種ではどうなのか、ということは分かっていない。そのため冨山先生の研究グループでは、高緯度の魚、つまり冷水性の魚類が分布を拡げる過程で、同一環境でも低緯度の集団の方が速く成長するか否かを探り、その可能性を見出すことに成功したとのこと。今後はその検証を進めるとともに、温暖化等の環境の変化に対して、魚類がどのような応答をするのか、ということも調べていこうとしている。
 
研究の醍醐味は、「想像力をかき立てられること」と冨山先生は言う。
「海の中で起きていることを知るためには、もちろん調査や実験を重ねることが大切ですが、その過程でいろいろな想像をしてみて、仮説を立てていくことがとても重要です。でも、想像どおりであることは滅多になく、いつも意外な発見や驚きがあって、そのたびに研究のおもしろさを感じています」。

小さな頃から生き物が好きで、とりわけ魚に強く惹かれた。種類が豊富で、見た目も生き様もさまざま。さらに同じ種類であっても、住んでいる場所によってまったく違う生き様を見せる魚類への興味は尽きない。どんどん調べていくと、驚くような小さな発見がたくさんあるという。「いずれ大きな発見があるといいなと思っています」とほほ笑む。
 
 
生物への理解を海や水産業に関わる人たちへと還元していきたい。
 

  冨山先生の研究領域は非常に幅広い。研究対象とする魚類が多岐に渡るだけでなく、フィールドも瀬戸内海をはじめ、研究をスタートさせた東北地方の海域や大分県と愛媛県の間に位置する豊後水道などさまざまだ。

もともと東北大学の学生の頃は、カレイを専門に研究。その後、福島県水産試験場の職員となり、大学とは違う立場での調査研究を経験したことから、いまでは、共同研究というスタイルに意欲的だ。
「広島大学のある瀬戸内海エリアにはたくさんの研究者がいますから、何かと情報交換する機会が多い。外部とうまく連携することで、研究の幅もうんと広がりますからね」。

その一方で、漁業者から学ぶことも多いと語る。
「例えば、カレイは一般的に外見から雄と雌を区別することはできないのですが、マコガレイは触診によって雄と雌を見分けることができることを、福島県職員の時代に、漁業者さんから教わりました」。

こうした多くの経験は研究への思いをも変えることになる。研究の出口として漁業者のためになることを意識するようになった冨山先生は、さらにその後、東日本大震災を経験。広島大学に赴任してからは、漁業者や福島県のサポートになるようにと、いっそう大きな視点から研究に取り組んでいるという。

「これまでは生物のことを理解する、ということが基本路線でしたが、今は温暖化など環境変動がどんどん進行しており、その影響や対策を意識した研究をしたいと考えています。特に瀬戸内海では水温の上昇が進行しているためか、冷水性の魚が特に減少しているように感じます。こうした魚、漁業、海の姿の変化に向き合いながら、水産業の在り方を考えていきたいですね」と語る冨山先生。

最後に、こうした研究に興味のある高校生の皆さんに向けて、激励の言葉を送ってくれた。
「たくさんのことに挑戦して、さまざまな経験を積み、広い視野と想像力をはぐくんでほしいです。そして、困難にぶつかっても簡単にあきらめない粘り強さを持ってほしいと思います。私自身、実験や調査で失敗や後悔は数え切れないぐらいありますが、それも大切な糧になっています。何事にも前向きにがんばってほしいですね」。
 
冨山 毅 准教授
トミヤマ タケシ
水産資源管理学研究室 准教授

2001年4月~2011年5月 福島県水産試験場 職員
2011年6月~2012年9月 福島県水産課 職員
2012年10月~2019年3月 広島大学大学院 生物圏科学研究科 准教授
2019年4月~ 広島大学大学院 統合生命科学研究科 准教授

2020年4月10日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦