|
|
|
|
|
|
|
|
「私たちの生活の中で人間と動物の良好な関係を築くことが私の研究の目的です」。谷田先生はそう笑顔で話し始めた。
先生の研究対象の動物は、家畜、野生動物、ペット、野良動物(猫)、飼育動物など幅広い。それぞれの動物と人間が今どのような関係にあるのかを調べて理解し、両者の幸福とは何かについて考えながら共生の方法を模索することが、先生の専門とする「人間動物関係学」であるという。
例えば、イノシシやシカといった野生動物の場合、農作物を荒らす迷惑な動物という側面ばかりが強調され、排除する方法の開発に主眼が置かれているが、目先の利益や感情に任せて動物を排除すればそれで全てが上手くいくのだろうか。果たして共生の道はないのだろうか。
|
|
|
また、日本における犬や猫などのペットの数は、いまや15歳以下の子どもの人口よりも多く、ペット産業は1兆円マーケットにまで巨大化している。そのようなペット社会で、家族の一員として大切にされるペット(犬猫)がいる一方で、多くが捨てられ、殺処分されているという現実もある。
さらには、幼稚園や小学校で飼われている鶏やウサギなどの飼育動物の現状も看過できないものがある。子ども達の心を育む教育のために飼われているはずなのに、適切な管理がなされていないために、すぐに死んでしまったり、病気のまま放置されたりしている動物も少なくない。
このような事例は氷山の一角であると言える。人間と動物の関わりを改善していくためには、まず人間と動物、両者の置かれている立場を理解し、存在を認めることが出発点になると先生は言う。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
研究の基本は観察だ。「学外のフィールドに出かけることが多いですね。野生動物を観察する場合は、体温を感知して自動で撮影するカメラを設置することもあるんですよ。対象の動物を観るだけでなく、その動物に関わっている人に会うことも重要です」と先生。
「また、罠を仕掛けて生け捕りにした野生動物に発信器を取り付けて放すこともあります。その後1年くらいかけて行動を追ってゆくと、動物が利用している道や1日に移動する距離なんかもわかってくるんですね」。そうした調査に基づいて、“棲み分け”など、排除以外の方法も含めて、行政サイドへの提案を行う。
|
|
|
その一方で、人間側についても調査している。「農家の方や幼稚園•保育園の先生にインタビューしたりアンケートをしたりします。園に対してはさらに、犬や馬を連れて訪問したり、先生と子ども達が飼育動物とどのような関わりをもっているのかを実際に観察したりすることもあります」。
動物行動学など、動物の習性や生態について詳しく研究する学問は古くからあるが、人間動物関係学は、さらに「人間との関係性」という視点を取り入れた新しい学問分野で、研究手法もさまざまであると先生は言う。
「私の研究手法は、理系と文系のハイブリッドスタイルです。動物行動学的な調査方法や社会科学的な分析方法を取り入れながら、人間と動物との関係を明らかにしていきます」。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
この研究分野に進んだ理由を尋ねてみると、そのきっかけは「幼稚園の頃に読んだ『ドリトル先生』の本」という。
「ドリトル先生」は動物の言葉が話せる学者の物語だ。「動物と話すには言葉よりもむしろ相手(動物)を理解することが重要です。人間同士のつきあいも基本は同じではないですか」と先生。
「人類の歴史は、人間が全ての生き物の頂点に立っているという考えでここまで来たと言えるかもしれません。しかし、近年の急速な地球環境の変化やそれにともなう異常気象に直面すると、これは私たち人間の振る舞いに対する地球からの回答なのかなと思うことがあります。本当は、私たちは人間以外の生き物たちのおかげで生きてこられたのではないでしょうか」
先生は、3〜5歳の幼児期にこそ生き物との共生やその命の大切さについて、知識だけではなく適切な体験を通して学ばせるべきであると考え、園の保育者や小学校の教師を対象に「動物介在教育入門」という本を今年出版した。本書では、保育者と教師が動物に対する意識を変えることが重要であること、動物を活用した教育には正しい知識が必要であることなどが解説されている。
「人間動物関係学は、いまだ専門書やテキストも少なく発展途上にある研究分野ですが、現代社会が直面している人間と動物の問題を解決するためには、今後の研究を担う若い人たちの活躍が重要です」。
|
|
|
谷田 創 教授 |
タニダ ハジメ
陸域生物圏フィールド科学研究室 教授
1987年1月1日~1990年3月31日 麻布大学 助手
1990年1月1日~1995年3月31日 麻布大学 講師
1995年4月1日~2008年3月31日 広島大学 助教授
2008年4月1日~ 広島大学 教授
2014年11月4日掲載
|
|