竹田 一彦 教授に聞きました!
 
環境と化学物質の関わりについて、近年、研究が盛んに行われている。なかでも水圏での光化学反応に着目。短寿命で濃度の低い物質の生成・分解・無機化に計測法の開発とともに挑む世界レベルの研究がここにある。
 
海や河川などの天然水中で発生する活性酸素を捉え、測定する。
 
  竹田先生の専門は光化学である。中心的な研究は大きく2つ。 ひとつは、海水や河川水中で発生する活性酸素がどういう役割を果たしているかを研究するというものだ。活性酸素は、酸素分子より反応性の高い酸素の化合物の総称で、過酸化水素やヒドロキシルラジカル、スーパーオキシドアニオンなどがそれにあたる。これらは生物に対して直接的な影響を及ぼしたり、さまざまな化学反応の引き金になることから、多くの研究者によって多様な研究が行われている。そうしたなか、活性酸素は濃度が低く寿命が短いため、それをどう測定していくかが大きな課題であることから、先生の研究室では、分析学的なアプローチを行っている。

そしてもうひとつは、太陽光の入射で発生する光化学反応そのものに興味を持ち、環境中で起こるさまざまな光化学反応を研究対象とするものだ。
 
先生の研究で特徴的なのは「手法開発」にあるという。
「パッと生まれてパッとなくなるようなものをいかに十分な感度で捕らえてやるかということがひとつには重要なので、いろいろな工夫をして、計測法をさまざまに提案しながら、どういう方法が一番適しているかというようなことを中心にやっています」と語り、「我々が持っている方法というのは、世界的に見ても非常に高感度なもの。これを中心に評価されています」と世界トップレベルを自認する。さらに、こうした水圏での光化学の研究者は、大気化学の分野に比べてさほど多くなく、希少な研究とも言える。

「海の上には絶えず光が当たっていて、それによって何かが起きている訳だけれども、実はあまり注目されていなかったために、あまり知られていないんです。そうした海の表層で起きている『素過程』をまずは解明しないといけません。温暖化だのオゾン層の破壊で太陽光が昔より強くなっているといった問題を解明する以前に、まずは『何が起きているのか』を明らかにすることが重要」と研究の意義を強調する。
 
 
手法開発の醍醐味は、限界がまたひとつ下がっていくときの喜び。
 
  光化学反応は、活性酸素の発生をはじめ、天然水中の溶存有機物の分解・無機化、それに伴うアルデヒド等の物質の生成に関わる。そして、そうした分解・無機化は光化学反応のみによるのではなく、光化学反応と生物的な反応の組合せによって起こる可能性もある。水圏での物質循環に深く関わる光化学反応の理解は重要な意味を持つとともに、未解明の部分の多い分野だけに、今後に期待がかかるところだ。

研究のおもしろみを尋ねると、「やはり、分からないことが分かるようになったときはおもしろいですね」と先生。
 
「例えば、1nM/Lまでしか測れていなかったのが、もう1ケタ低い濃度で測れるようになったとき。検出限界が自分たちの手法で下がっていくときが非常に楽しいですね!」と語り、「いまの世の中、まったく新しいものというのはなかなか出てこない。そうした中で、自分たちの工夫やアイデアを入れることで世界に挑戦できる、世の中に打って出られるというのは、非常に楽しいことに他なりません」と目を細める。

先生によれば、環境化学というのは実に複雑な学問である。地球上では生命や物質循環、環境中での化学反応などが複雑に絡み合っている。しかし実は、その一つひとつは単純な組み合わせであり、そうした一つひとつを紐解いていくのはすごくおもしろいことというのが先生の考えだ。
 
 
  「昔は単純なひとつの発見が大きな研究になり、大きな成果となっていましたが、いまやそれは難しい。環境中の物質も、かなり多くの部分は研究され、分析されつつありますが、分かっていないことはまだまだあります」と先生。

大切なのは、小さなことから積み上げていくことと先生は言う。
「『分かる』ということは非常におもしろいこと。いろんなことが実はもの凄く単純なものの組合せで理解できる。だから、一つひとつ、『あ、そうなのか!』ということを重ねながら進んでいくのが大事だと思うんです」。
 
アイデアを生かして、自身の通ってきた道が特徴となるような研究を。
 

  竹田先生自身は、光に対する興味から、学部生の頃は理学部物性学科に学び、大学院進学の際に生物圏科学研究科の光材料の研究をしている先生のところにやってきたとのこと。学部で学んだ材料の基礎を大学院で光に応用するということになる。しかしその後、分析化学の教室の助手にという話があり、さらに分野を変えたという。

「光化学というところで接点があったので、2度の方向転換も、自分としてはあまり大きく変わったとは思っていません」と先生。

「それでも、大学のときからずっと化学をやってきた人、ずっと生物をやってきた人、そういう人とは違う視点が僕にはあると信じています」と言い、「自分の特徴を生かして、他にはない、ひとには思いつかない、僕たちでしか思いつかない仕事がしたいね!」と学生にもよく話すとのこと。
研究者を目指す若者に向けては、前述した「小さなことから積み上げていく」という研究へのスタンスとともに、次のようなメッセージを送ってくれた。

「勉強したことから出てくるアイデアが重要だと思うんです。世の中がこっちを向いていくからこっちを、ではなくて、自分のアイデアを持って研究する。人と同じことではなくて、誰も考えつかないことをやる。目標を高く設定しながら、自分のアイデアを生かしていくということが、研究者としての道を歩むキーフレーズになるのではないかと思いますね」。
先生はまさにいま、そうした道を歩んでいる最中だ。世界トップと肩を並べると言っても過言ではない稀有な手法が、これからも生まれていくに違いない。
 
竹田 一彦 教授
タケダ カズヒコ
環境化学・環境分析化学研究室 教授

1990年12月1日~1999年3月31日 広島大学総合科学部 助手
1999年4月1日~2007年3月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授
2007年4月1日~2019年3月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授
2019年4月1日~2021年3月31日 広島大学大学院統合生命科学研究科 准教授
2021年4月1日~ 広島大学大学院統合生命科学研究科 教授

2017年5月19日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦