太田 伸二 教授に聞きました! インタビュー
 
自然界には人類がいまだ知らない物質が数多く存在する。 その中には、医薬品開発のカギとなる物質も きっと眠っているはず。 探索と分析によって、その可能性に挑むことは 人類の明るい未来を切り拓くことにつながっている。
 
それは“ものとり”と呼ばれる、新たな有用物質を見つけ出す作業。
 
写真   天然物化学を専門とする太田先生は、生理活性を有する新しい天然有機化合物を探索し、その構造と機能を明らかにすることをメインの研究テーマとしている。
生物学の分野ではこうした活動を、活性のある「もの」を「とる」ことから“ものとり”と呼ぶそうだ。「スクーリングとも言うんですが、世の中にまだ知られておらず、なおかつ役に立つ物質を発見するのが目的です。

特に、医薬品の基になったり、健康の向上に役立つというような有用性を持った有機化合物を探そうとしています」と太田先生。研究対象は主に海綿や昆虫、植物、微生物など。なかでも海綿という海洋生物の研究で、太田先生はこれまでにさまざまな成果を上げてきている。そのひとつが、「イグジグオリド」という物質の発見だ。

「海綿は岩に固着して生活していて、体に網目状の空洞がたくさんあります。この孔がまわりから水を吸い込んでは吐き出すんですが、その孔の中に微生物やバクテリア、藍藻類などが共生しているんですね。この共生微生物たちは縄張りを広げていこうとするものの、生存競争が大変激しい。

そんな中で、化学物質を武器に使うものがいたりします。化学兵器として使える『猛毒』を作り出すことで、共生微生物は生き残ろうとしますし、その毒のおかげで、宿主である海綿が敵から身を守るという状況もあるんですね。この毒性の化学物質は、そのままでは役に立ちませんが、そこに特定の生体分子等と選択的に相互作用する物質が見つかれば、新たな抗ガン剤開発のためのリード化合物や細胞機能調節剤の開発につながる可能性があるんです」。
 
『イグジグオリド』が拓く、新たな抗ガン剤開発への道。
 
太田先生は約20年間、海綿の研究を続けてきており、いくつかの新しい物質を発見している。日本近海に生息する約500種類の海綿を調べるなかで2006年に発見されたのが「イグジグオリド」。奄美大島近くで採取された「ゲオジア・イグジグア」という海綿から見つかった新規生理活性物質だ。

2011年頃から広く注目され、各種メディアにも多数取り上げられているという。「有機化合物を分離して解析し、その構造を特定するところまでが私どもの研究で、その後はいろいろな研究グループが段階的に調べていく訳です。

イグジグオリドの場合は、私たちが特定した構造を受けて、東北大学のグループがさらに研究を進め、肺ガン細胞の増殖を特異的に抑制する働きがあることが確かめられています。いずれは抗ガン剤の開発につながる可能性が見えてきました」。
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太田先生の研究でポイントとなるのは、「選択性の高さ」である。「私のグループでは、海綿抽出物をヒトデやウニといった棘皮動物の卵に入れると、胚発生や受精を阻害するかどうかといったバイオアッセイ方法(生理活性試験)を採択しています。イグジグオリドは受精を阻害して、他の発生過程では阻害しないということが分かりました。

このように、特定の酵素だけを止めるというような選択性の高さが見つかれば、その後の医薬品開発へとつながるんですね」と太田先生。先生の研究によって発見される物質は非常に微量だ。それゆえに見つけにくいのだが、有機合成によって量を増やし、その性質を調べていくことで有用性の確立につながる。医薬品開発の根幹を支える研究と言えるのだ。
 
見つける喜びはまるで宝探しのよう。さらに、それが活かされる喜びも。
 
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劣化度測定装置「レッカミール」
  太田先生がこの道に進んだのは、学生の頃に出合った機器分析がきっかけという。
「いくら目や顕微鏡で見ても分からない化学構造というものが、機器分析を使うと、見てきたかのように構造式として表すことができるということに興味を持ったんです。そういった装置を使って、これまで全く知られていない、あるいは隠されているものを見つけて明らかにする、そして、世界で初めて見つけたものに自分で名前をつけるということができるのは非常に魅力的なんです」と太田先生。

今後はさらに探索の対象を広げていくとのこと。すでに植物や昆虫などにも力を入れており、種子の発芽や昆虫の変態に関与するさまざまな化学成分の研究で、いくつかの成果を得ているという。

「特許申請中のものに、昆虫の研究から見つけた、新しい構造を持った脂質というのがあります。これは一部構造を変えるなどして糖尿病の治療薬開発につながることが期待できます。抗生物質のもとになるカブトムシディフェンシンが日本で発表されたように、私たちも負けずに、医薬品開発につながるものを見つけていきたいと思っています」。
 
太田 伸二 教授
オオタ シンジ
国立大学法人 広島大学大学院 生態機能物質化学研究室 教授

1981年 広島大学理学部化学科卒業
1986年 広島大学大学院 理学研究科博士課程修了
1986年 4月1日~1987年 3月31日 広島大学理学部助手
1987年 4月1日~1990年10月31日 広島大学学校教育学部講師
1990年11月1日~2003年 3月31日 広島大学機器分析センター助教授
2003年 4月1日~2004年 3月31日 広島大学自然科学研究支援センター助教授
2004年 4月1日~2012年 3月31日 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部教授
2012年 4月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科教授

2012年12月21日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦