長岡 俊徳 准教授に聞きました!
 
植物が育つための基盤となる土壌は、
農業の基盤としても重要なもの。しかし、
鉱物、有機物、空気、水、生物の混合物である
土壌の研究は、実は大変に奥行きが深い。
その複雑さ、難解さこそがその魅力なのかもしれない。
 
植物をよく育てる土壌とは。有限なリン資源の有効活用にも取り組む。
 
長岡先生の研究室では、植物生産の向上と環境保全の両立、すなわち、持続可能な植物生産を目指して、植物と土壌生態系の役割を解析・活用するための研究をおこなっている。

主な研究対象は「土壌」だが、そこで栽培する植物の生産性や養水分の吸収、成分組成(品質)などとの関係を総合的に解析して明らかにすることが目標であるため、研究は土壌と植物の双方を分析するというスタイルである。
「植物の研究者は、土壌をあまり調べないことが多いし、土壌学というと、土壌だけを分類したり分析したりが多いんですが、ここでは昔から、土壌と植物、両方見ようというスタイルで研究を続けています」と長岡先生。ポイントは「土壌がどう植物に影響するか」を探ることにある。

「土壌の物理性、化学性、さらには、微生物と深く関係している有機物を活用して、持続可能な植物生産のための土壌管理を可能にできればと考えています」。
 
特に現在の研究の中心となるのは、リンの研究だ。
「窒素、リン酸、カリ」は肥料の三要素と言われ、植物が生育するために必要な栄養素(必須元素)の中でも特に重要とされている。その中のリン酸は土壌に固定、吸着しやすく、また土壌中のアルミ二ウムや鉄、カルシウムなどと結合し、溶けにくくなるという特性がある。
「植物は根から水を吸収するときに、水に溶けている養分を一緒に吸収しているので、土壌中に溶けてくれないと吸収できない訳です。リンの場合は溶けにくい形態になることが多いので、土壌中にたくさんいないと、肥料の吸収割合が低くなります」。
こうした理由から、肥料として大量投与する近代農業により、大量に消費されるようになったリンは、近い将来の枯渇が危惧されている、重要かつ有限な資源であるため、その有効活用のための方策がさまざまに研究されているという。
 
 
  そのため、長岡先生は現在、難溶性無機態リンを溶解できるリン溶解菌や難分解性有機態リンの分解に関わる微生物(フィチン酸分解菌など)の機能を解析し、「土壌に蓄積しているリンを作物に効果的に利用させるための研究」に取り組んでいる。
「食品の残渣(食品由来のごみ)や家畜排せつ物といった廃棄物を堆肥化したものの中には、養分がかなり含まれていて、それをうまく循環させようとしています。僕の場合は、有機物を土壌に入れるんですよ。すると、微生物が増える。微生物の力を利用してリンを無機化して、溶けて植物が吸収できやすいものにする。そういった研究をしています」。

圃場(ほじょう)には、有機物(堆肥)や化学肥料を連用した処理区が設けられ、作物の生産性や養分吸収、土壌の物理性、化学性、微生物に及ぼす長期的な影響などが調べられているという。
 
実は大変難度の高い土壌研究。多様な中から見極めるおもしろさも。
 
「土壌だけ見ていても分からないことって結構あるんですよ。でも、育っている植物を見れば、何が足りないかが分かります。それと、分析の結果、土壌に足りてないものが一致すれば、それが原因だろうということが言えますよね」。両方を見る研究スタイルには、こうしたメリットがあるという。そして、こうした研究の成果はいずれ、栽培や土壌管理などの指針づくりに活かされていくことが期待される。

長岡先生は元々、有機化学、天然物化学を専門としていたこともあり、顕微鏡を覗くことよりも、化学分析が好きなのだそう。そのため、この研究のおもしろさについては次のように語る。
「土壌は非常に不均一な、多様な素材なので、その中のひとつだけが大事ということはおそらくないんですね。分析によって、いろいろなものが関わってできている状態を整理して、一番目にこれ、二番目に…と順に見極めていく。多様なものの中から、大事なものを見極めていくというのが、この研究のおもしろいところじゃないでしょうか」。
 
 
  また、この研究の難しいところは、土壌の複雑さにあるという。
「空気みたいなものだったら、すぐ成分なんて分かるんですけど、土壌の中はいろいろなものが関わってくるので、結構難しいんですよ。微生物もいるし、鉱物からできていますが材料も全然違うし、過去にどんな肥料をやったかとか、どんなものを育てたかによっても、場所によっても全然違うんです。実際に土壌との関係を見ようと思ったら、そのあたりのところを同じような条件にしてやらないといけない。ポットは条件を揃えやすいですが、畑や圃場、農場と大きくなってくるとさらに見づらくなってきますね」。
 
広島県の土壌を対象にすることが多いため、広島県に広がるマサ土をメインに扱う。マサ土とは、花崗岩が風化してできた未熟な土であるため、悩ましい特性もあるとのこと。
「マサ土は、堆肥を入れると、小さい粒子が団粒化するなどして、保水性や養分の保持が良くなったりするんですが、分解が早いらしく、有機質を入れてもなかなか溜まってくれないというのが悩みですね」。
さらに、屋外での栽培の場合には天候に左右されることもある。「最近は、栽培がうまくいかないことも結構多いので、土壌ばっかりいじっててもダメかなと。気候変動も頭に入れておかないととは思いますね」。
 
 
研究室には栽培好きがたくさん。楽しみながら幅広い研究を!
 

  「土壌って割と地味なんですよね。土壌学は農学の中では基盤ですし、なくてはならない分野なんだけど、パッと華やかなイメージがあまりない。大発明や大発見とかいうのはあまり出にくい分野ですね」と笑う長岡先生。

そんな長岡先生のもとに集まるのは、栽培がしたいという学生が多いという。「植物を栽培する研究室はあまりない」ということもあり、農学に興味のある学生たちが集まって、意外と大変な栽培に精を出しているそうだ。

長岡先生は若者たちに、土壌への関心や理解を期待しているという。
「作物を栽培することに興味のあるひとにはぜひ、土壌の大切さを理解してもらいたいと思っています。土壌は農業の非常に大事な基盤になるものなので。土壌環境の分析や評価、あるいは植物との関係や微生物など、研究で扱うものは実はたくさんあるというのも特徴かなと思います。そんな土の世界に興味のある方はぜひ我が研究室へ」。
 
長岡 俊徳 准教授
ナガオカ トシノリ
植物環境分析学研究室 准教授

1991年4月1日~2002年3月31日 広島大学 生物生産学部 助手
2002年4月1日~2003年3月31日 広島大学大学院 生物圏科学研究科 助手
2003年4月1日~2007年3月31日  広島大学大学院 生物圏科学研究科 助教授
2007年4月1日~2019年3月31日 広島大学大学院 生物圏科学研究科 准教授
2019年4月1日~ 広島大学大学院 統合生命科学研究科 准教授

2020年5月19日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦