長沼 毅 教授に聞きました!
 
生き物の不思議を知りたくて、さまざまな海洋、高地、果ては極地まで出掛けていく旺盛な好奇心。見つめる先には、宇宙が広がる。まだ見ぬ生命との出会いが待っている。
 
過酷な環境にもいる地衣類の結びつきのルールと進化を探る。
 
  さまざまな生物に興味を持ち、多彩なフィールドで活躍する長沼先生に、現在進行中の3つの研究について解説してもらった。

いま先生が気になって追いかけているもののひとつは、「地衣類」という生き物だ。これは、陸地で一番広く分布しており、普通の我々の生活圏にもいるが、極地や高山、砂漠などの過酷な環境にも進出している、大変たくましい生き物という。しかもその正体は、2つの生物が合体したものとのこと。

「菌類(カビ)と藻類(藻)が合体しているんですよ。しかも、そのカビが藻にハウスのようなものを提供して、過酷な環境から藻を守っている。藻は光合成をして栄養をつくり、余った栄養をカビにあげるんです。こうしたいわゆる共生関係は、いわば1+1が3になるような関係。それによって、過酷な環境でも大繁栄できるというのが地衣類なんです」。
 
興味の中心は、この両者の組合せにはルールがあるのかどうかということ。

「組合せには必然性があると思われてきたけれど、遺伝子レベルで見てみるとけっこう偶然性に頼っている部分もある。そうした偶然の出会いから環境のプレッシャーを受けながらより良いものにだんだん収斂されていく過程は、生物の進化のミニチュア版だと思うんです」と先生。

そんな謎を解明するために、「地球規模であちこちに行ってこの地衣類を見てみたい」、「世界中の地衣類を集めたい」と意欲を燃やす。北極にも南極にもこの地衣類がいることも新たな謎のひとつとのこと。先生は、こうした過酷な環境にいる生き物たちが特に好きで、常に彼らを追いかけているという。
 
 
とにかく変な生き物を探し続ける。ひょんなことから大発見も。
 
  気になるふたつめのものは、変な生き物。「微生物そのものがめちゃくちゃ変というやつを探しています」と先生。その一例は、右手型のアミノ酸に関わるものだ。

アミノ酸は我々の体をつくる材料のひとつだが、つながってタンパク質をつくるアミノ酸は全部で21種類しかない。しかもこのうち20種類にはキラリティー(対掌性)というものがあり、ちょうど掌のように、同質・同素材であるのに重ねあわさらない性質を持っているという。

「アミノ酸を人工合成すると、右手型と左手型のものは半々ずつできるんです。しかし、生物界には右手型はほとんどない。これが謎なんです」。
 
なぜ左手型ばかりなのかは分からないが、それでも仮説として、「右手型のアミノ酸を好むものとか、右手型のアミノ酸で自分の体ができているものがいてもいいんじゃないか?」と考えて、先生はそうした生き物を探しているという。

「地球上の生き物は、たった1本の家系図に全部載ってしまう。これは科学者の信念で、たぶんそれは正しい。でも、我々はその裏の答えに対してチャレンジしていく。もしも、右手型のアミノ酸でできたものを見つけたら、別の家系図に載る訳ですよ。これは、宇宙生物の発見にも匹敵する発見。それを目指しています」と先生。実は最近、微生物のひとつが、右手型のアミノ酸を食べた方が元気だということが分かったのだとか。なぜそんなことが起こるのか、その不思議の解明にも挑みながら、探し続けていくといういまのポジションは、非常におもしろいものになっているという。
 
 
  気になるひとつめは、変な環境にいる変な生き物。ふたつめは、普通の環境にいるかもしれない変な生き物。そしてみっつめは、変な取り方で見つかった変な生き物だ。

「取り方を工夫することで、めちゃくちゃ変な生き物が見つかってくるんですよ。例えば、環境中から微生物を純粋培養する際に、いろんな条件でバクテリアを生やすんですが、普通ならば、さっさと生えてきたものを取ります。そこを全部捨ててしまって、ゆっくり生えてきたものを取ってみたんですね。非常に気長に待って待って。すると、詳細に分析したら、なんと、我々がいままで見たこともない、まったく新しい新種だったんです」。

しかもそれは、種―属―科―目―綱といった分類の中でも「綱」という高いレベルのものだったという。

「21世紀のいま、こんなレベルで新しいものが見つかるなんて、なかなかありません。私自身も大変驚きました」とニッコリ。

工夫次第ではいまでも、とびきり珍しいものを見つけるチャンスがあることを実感した長沼先生。「これからも人と違うことをやることによって、新しい生き物をどんどん見つけていきたい」と目を輝かせた。
 
広島大学は、おもしろいことができる環境。若者よ、来たれ!
 

  とびきり新しいもの、おもしろいもの、変なものに惹かれるという先生の、研究者としての目標は、“とびきりおもしろいことをしたい!”というものだ。

「ライフワークとして掲げている大きな夢は、『地球外生物の発見』です。しかし、これを普通の実験室で研究する訳にはいかないから、それに向けて、さまざまな研究をしているんですね。地球の生き物ってこんなに変であり得るっていうことを示していく。それは、地球生命の可能性を知ることであり、そうした可能性をどんどん明らかにしていけば、宇宙のような厳しい環境でも、生命ってあり得るんじゃない?という可能性につながっていくと思うんです」。

また、広島大学の環境について尋ねると、「すごくいいですよ」と絶賛。「学問分野的にも、施設設備的にも非常に充実した総合大学なので、ここは教育研究環境としては最適です」と高い評価を示した。

「舞台はしっかり整っている。あとは、そこでどうプレイするかですね」。

そして、若い世代に向けて、次のようなメッセージを送る。

「広島大学の教育目標として、平和を求める国際教養人というのがあります。そうなりたいと思う方はぜひ、うちの大学に来てください。そのために、私たち教職員はしっかりお手伝いをさせてもらいます。ただ、生きるための知識や技術、スキルは与えられるけれども、『生きる力』そのものは自分自身でつけていくしかない。それでも、あなたが弱った時や悩んだ時には、我々に遠慮なく頼ってきて欲しいですね。そんな時はよろこんで支え、背中を押します。身近な友人や家族のほかに、我々教職員も、あなたの味方に加えて欲しい。広島大学はそういった大学を目指しています。あなたがわが大学、学部に来てくれるのを待っています!」
 
長沼 毅 教授
ナガヌマ タケシ
海洋生態系評価論研究室 教授

1989年4月1日~2004年8月31日 海洋科学技術センター(JAMSTEC、現・独立行政法人海洋研究開発機構) 深海研究部研究員
1991年3月1日〜1993年3月31日 カリフォルニア大学サンタバーバラ校 客員研究員
1994年9月1日~2002年3月31日 広島大学生物生産学部 助教授
2002年4月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授
2015年10月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授

2015年12月4日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦