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前田先生の中心的な研究は、「生殖細胞の人為操作」に関するもの。これは、精子や卵、受精した胚などを操作する研究で、「ヒトで言えば、不妊治療に近いようなイメージ」と先生は言う。
具体的には、家畜や家禽の精子の保存や、精子の元になるような始原生殖細胞の利用や保存、あるいは胚の保存などを研究している。精子はオス側だけの、卵子はメス側だけの遺伝情報しか持っていないが、受精したあとの胚もそうした遺伝情報を保持したまま保存できないか、というのが先生の研究のテーマである。
「例えば、鳥類の卵というのは非常に大きい。あれが1個の細胞ですからね。その中で完結してヒナになる。そういった胚を保存することを狙っています」と先生。ほ乳類の卵子は小さいので、冷凍保存に成功しているが、鶏卵のような大きな胚はまだ保存する技術が確立されていないのだ。
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なかでも特徴的なのは、日本原産の鶏「オナガドリ」を使った研究である。
「広島大学にある日本鶏資源開発プロジェクト研究センターには、天然記念物である日本鶏がたくさんいるんですが、僕の担当は、そういった貴重な遺伝資源を確実に後世に遺すということ。科学研究の補助金をいただいている研究では、オナガドリの胚を使ってES細胞をつくり、そこから大体5~10世代くらいまでの培養に成功しています」。
広島大学には鶏を扱う研究者が多数集まっており、研究環境としては世界的にも大変恵まれていると先生は言う。 |
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実は、先生が目指しているニワトリの卵の保存は、世界的には不可能だと言われているという。
「食用ならば、冷蔵庫で1ヵ月ももちますが、生きた状態では冷蔵庫でも2週間程度が限度。オス・メスの情報を持った、有効な次の個体となるものを半永久的に保存したい。そう考えているんです」。
「イメージとしては臓器保存に近い」と先生。
「細胞というよりは組織。組織や臓器を保存する、といったイメージで、なんとか保存する方法を見つけたいと思っています」。
そして、こうした不可能と言われていることに挑むことこそが、この研究の醍醐味だと語る。
博士課程の頃の研究テーマは、「家禽精子の凍結障害に関する研究」だった。 |
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「その頃、凍結した時になぜ精子がダメージを受けるのかということに興味がわいた」という前田先生。以来30年近く、生殖細胞にさまざまなアプローチを続けてきたという。
「最終的に、いい動物をたくさんつくれればいい。『貴重な遺伝資源を確実に後世に遺す』というのが僕の仕事だと思っています」と静かに微笑む。
また、「賞を取ったり、有名な科学雑誌に載ったりなどということは気にしていないんです。むしろ、学生さんと一緒に研究をして、学生たちが成長してくれることが一番のよろこびです」と言い切った。
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先生の研究室では、多くの留学生たちも学んでいる。過去には、エジプト・スーダン・ネパール・ザンビア・中国などからの留学生を受け入れ、いまはそれぞれの母国で活躍しているという。
「いまは中国とアフガニスタンからの留学生がいます。彼らも帰国後は大学の先生になったりするでしょう。世界中でうちの卒業生たちが頑張ってくれているのも大変うれしいこと」と話す先生。いずれ各地を訪ねていくのが今から楽しみという。
また、先生は現在、瀬戸内圏フィールド科学教育研究センターのセンター長を務めることから、老朽化している施設の大規模改修を進め、近代的な農場設備に作り替えたいとも考えている。
「自身の研究を進めていくとともに、人材教育や後進のためになる環境を整備していくことも、私の大切な仕事です」とにっこり。生殖細胞の保存技術の研究と同じく、“後々のために役立ちたい”という先生の想いは、こうした姿勢にも色濃くにじんでいる。
最後に、これから広島大学への進学を目指す若者に向けて、メッセージをもらった。
「皆さんには、最初からこの研究をやりたいからこの研究室へという風に考えずに、幅広く知識を得ながら、いろんなことに興味を持ってトライしていってもらいたいと思います。さまざまな学びのなかで、興味を持ったものを選択してその道に進んでもらいたい。自分の個性を発揮できる場はたくさんあります。そんなスタンスで、これからを考えてみてはいかがでしょう」。
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前田 照夫 教授 |
マエダ テルオ
家畜生殖学研究室 教授
1981年4月1日~1990年6月30日 広島大学生物生産学部 助手
1990年7月1日~2002年3月31日 広島大学生物生産学部 助教授
2002年4月1日~2005年10月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授
2005年11月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授
2012年4月1日~ 生物圏科学研究科附属瀬戸内圏フィールド科学教育研究センター長
2015年8月27日掲載
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