豊後 貴嗣 教授に聞きました!
 
「家畜のこころとからだを知る」これが同研究室の大命題だ。「世の中で一番不自由な動物」と称された家畜に対してできるだけ詳しく知り、よりよく飼育することこそ飼う側に課せられた使命に他ならない。
 
研究は興味のおもむくままに。家畜の摂食をめぐる諸要素を考える。
 
  「なんでも屋なんですよ」と自身の研究スタイルを語る豊後先生。
専門や研究について尋ねられるといつも困ってしまうと笑顔を見せる。
研究の核となっているのは動物の「摂食行動」。しゃべることのできない動物にとって、食欲は体調を知るひとつのバロメーターとなるからだ。

「食欲が落ちるのにも、さまざまな要因が考えられます。そうした『食べること』を取り巻くもろもろの仕組みがどのようになっているかを研究するのが、いまの研究テーマになっています」と先生。

豊後先生によれば、そもそも家畜管理学という研究科目は、1960年代にこの研究室の初代の教授が当時の文部省に申請して承認されたもので、先生が学生の頃は、ここ広島大学がこの教育科目のメッカのような存在だったという。
さらに、家畜管理学は、家畜の行動学と家畜の環境生理学の2本柱から成るとのこと。
 
「家畜管理学というのは、戦後、大規模集約的に畜産をするようになってきて、それに対してどういう風に家畜を飼育管理すればよいかを体系的に教育する科目だったんです。ひとつには家畜の行動を見て、各個体がどういう状態にあるかを知るといった学問ですね。一方、家畜の環境生理学は、建物や空気、温度など、群れを管理する時の、飼育環境を考えていく学問。この二本を合わせた家畜管理学というのは、飼う場所や飼い方をきちんと整えてやり、家畜がこんな時には何が必要かを飼う側がきちんと知ってやるための教育なんです」。

例えるならば、先代の教授は、病院で言えば心療内科にあたると話されていたとのこと。
「心療内科は精神科でも内科でもない。心と体の状態、そしてその人を取り巻く環境などを統合して考え、体を改善していく診療科です。これを家畜に当てはめると、心と体を知って、家畜を取り巻く環境を整えてやるということに。これが、人間の心療内科にあたる家畜管理学の第一義なんです」。
 
 
ニワトリの食欲減退に秘密兵器。地方自治体との共同研究も。
 
  生物圏科学研究科での研究活動には、生物生産活動につながること、すなわち、生産性を上げるという観点から行うことが求められる。そのため、摂食量が下がるということは生産量が下がることにつながるという論法を取る。では下げる要因となるものは何か、といったことから研究の端緒が見えてくる。

「摂食量を下げる要因として考えられるのは、ストレス、最近では特に暑熱によるストレスなどが取り上げられます。研究手法としては行動観察・解析・調査など。アドレナリンなどのモノアミンが血液や脳内で増えているかどうかを高速液体クロマトグラフィーなどで測定するといったこともその一環です」。

また、ニワトリのストレス耐性を見る検査には、ヒヨコを仰向けにして緊張状態にさらしたり、鏡を見せて攻撃をするかどうかを見るといったものなどがある。その際に、個体ごとの違いだけを見るのではなく、ストレスに強いと言われている品種と比べ、遺伝的背景を見ていくと、これがいずれは育種選抜の指標にもなっていく。
 
また、暑い時には人間同様、家畜も食欲がおちるが、家畜の場合には独特な体温調節機能が働いているので難しいという。

「消化・吸収する時には熱が出るので、動物はあえて食べないことでその発熱を抑えているし、それぞれの放熱機構を働かせて熱を排出してるんです。そうしたことをよく知った上で生産性を落とさないためにどうするか、ということで、和歌山県と共同研究を行っているのは、エサの工夫です。これもひとつの方法で、消化・吸収時に発生する熱による悪影響を抑えるものをエサに混ぜる。そこに何かの副産物を活用できないか。そういった一挙両得な方法を探っているところです」と豊後先生。

そのひとつは、和歌山県の特産品である梅酢加工物質をエサに混ぜることで、ニワトリの夏バテを防げないかという研究だ。

「梅酢加工物質に含まれる抗酸化成分が暑熱からくる酸化ストレスを防ぎ、夏バテをせずにちゃんとエサが食べられるようになるといったような手法。これは実際に、梅酢加工物質をエサに混ぜて、生産性だけでなくニワトリの生理機構に有効かを検証するといったところまで進んでいます」。
 
 
研究の動機は“快感”―― 「結びつきが見えると最高に気持ちいい」。
 

  豊後先生は大学に入るまでは、昆虫の研究がしたいと考えていたそうだ。
「しかし、その研究室に入るには「優」が沢山必要だったので、諦めて第2志望の動物の研究の道へ。動物の研究ならどんなことがいいかと考えた時に、高校生の時に読んだ『ソロモンの指環』という動物行動学の入門書は面白かった。そうだ、動物行動学をやろうと思ったんですよ」。

そうして入ったのは、飼料学研究室。家畜のエサについて考えるところで、その先生が動物行動学も併せて指導されていたのだそう。
「そこでエサの研究をしながらヤギがエサを食べる行動の研究をしていました。これが入口になったんですね」。

さらに、その研究室に新たに来られた先生との出会いにも大きく影響される。「その先生が、ニワトリを使って脳とホルモンと摂食行動などを研究されていましてね。これをお手伝いしながら、生理学的なことと行動とをリンクさせなければ、動物の摂食行動も十分な考察ができないことを痛感し、そうした分析を取り入れていけばいいと。方向性がどんどん明確になってきました」。
研究の醍醐味を尋ねたところ、「仮説を立てて実験をして、結果をまとめて論文を書き上げた時の凄まじい快感」との回答。この「凄まじい」の部分は、研究仲間の間でも公言されていて、ちょっと変わった見解と評されているそうだ。

「もっと言えば、モノの微細なところにはあまり興味がなくて、俯瞰して物事の結びつきが見えるのがすごく面白いと思うんですよ。そこから新しい展開がまた見えてくる。だから、ひとつやっていると、あれもこれもしなければと次から次へ手を出したくなる」といたずらっぽい笑みがまたこぼれた。

今後もさらに、いろいろなところに触手を伸ばしていきたいと語る豊後先生。いまは、いろいろな種類のニワトリを仕入れて、行動と性格の関連を調べているとのこと。研究室の学生や院生との関係も非常に良好で、その進路も比較的順調だ。

「卒業生の多くは、出身県の畜産試験場に就職していますし、他大学の研究職に就いている子もいます。そうしたOB・OG達からいろいろな相談が寄せられて、それを一緒に調べていくということも」。

自由度が高く、大らかな気風が広島大学の持ち味と評し、今後も好奇心旺盛な後進が研究に参加してくれることを期待しているという。
 
豊後 貴嗣 教授
ブンゴ タカシ
家畜管理学研究室 教授

2000年4月1日~2005年7月31日 愛媛大学農学部生物資源学科 助教授
2005年8月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授
2008年12月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授

2015年3月2日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦