大塚 攻 教授に聞きました!
 
すっかり海の悪者のイメージが定着してしまったクラゲという存在に、別な角度からアプローチし、クラゲの有用性を立証しようという試み。その研究の過程で見えてきたのは人間社会にも通じる“連関”という構図だった。
 
中心となるのは、食用クラゲの科学的実態の解明と共生生物の研究。
 
  大塚先生の専門はプランクトン。中でもカイアシ類という微小なエビ・カニの仲間の研究でこの世界にデビューを果たした。元はエチゼンクラゲの研究で世界的に知られる上先生と同じ研究室に所属。
その後、上先生とは別な角度から研究をスタートさせた。そのひとつが先生の研究の1つめの柱となる「食用クラゲの科学的調査」である。

食用として日本で一番いいとされているのはビゼンクラゲという種類のもので、大きいものは30kg以上にもなるという種。これが近年、有明海で増えているため、大塚先生は、広島大学の練習船・豊潮丸で調査に出かけたり、タイを始めとした東南アジアでも同様の調査を行っているという。

というのも、食用クラゲについては、どこで、どんなものが、いつ、どれくらい、どんな方法で獲れているのか、日本へ輸出されているのかといった科学的データが少なく、正確なところがよく分かっていない。
 
このため、先生のグループはここ17~18年ほど聞き取りを含めた調査を行っている。

先生の中には、「悪いイメージのあるクラゲだが、生物学的に彼らの代弁をしたい」という思いがあるという。「クラゲは何億年も生き抜いてきている訳ですから、生きぬく秘訣があるはずなんです。

そのひとつに『いろいろな生物に頼られている』ということがあります」。例えば、イボダイという魚はアカクラゲという毒の強いクラゲに共生している。魚はクラゲにくっつくことでサワラなどの肉食の魚から守られ、さらにはクラゲ本体を食べたりもするのだとか。

「クマノミとイソギンチャクの相似形だけれども、クラゲの側にはメリットがなくて、実に迷惑な話なんです」と大塚先生は笑う。
 
 
クラゲを『共生』という観点から徹底的に調べる。世界でも先駆的な研究。
 
  「クラゲ本来の種間関係を調べる」というのが、先生の研究の2つ目の柱だ。「これは、クラゲがどんな生物とどうやって一緒に生きているかを調べるものです。クラゲはいろいろな生物と関わりがあって、毒で身を守る、食用にする、乗り物にして自分の分布を広げるというように利用されていることが分かってきました。

こうしたことから、クラゲは本来は“なくてはならない存在”と言えるんです。悪者だといって獲ってしまっては、魚は困る訳なんですよ」と大塚先生。

このように「共生」に着目してクラゲを調べている研究者は世界でもわずかしかおらず、大塚先生は、この分野ではまさに世界のトップを走っているそうだ。
 
さらに3つ目の柱となるのが、「フグ類に寄生する寄生生物の研究」である。西日本では養殖トラフグが寄生虫によって全滅した年もあるという。この寄生虫はウオジラミというカイアシ類の仲間です。
これが寄生すると、トラフグの皮膚が食べられてボロボロになり、そこからバクテリアが入って魚がだめになってしまう。水産業者が悲鳴を上げてきて、以来、一緒に研究することになりまして、今でも力を入れて研究しています」。

養殖場というのは寄生虫にとってはパラダイスで、養殖場内で爆発的に増えていく。これを克服しなければ養殖業が成り立たないため、生活に直結した研究として期待も大きいとのこと。「フグに特異的な寄生虫というのがいるので、それがなぜフグにつくのかというのを共同研究しています。研究はとてもアグレッシブですよ」と大塚先生。
 
 
『共生』は大きなテーマ。共生なくして生物の世界は成り立たない。
 


  先生の研究のメインテーマは「共生生物学」である。「『共生なくして生物の世界は成り立たない』。人間も同様で、映画「アバター」にもそうしたメッセージが込められているんですよ。人間は生物や地球環境に対して圧迫を与えていますが、いつかしっぺ返しが来るということを我々は肝に銘じておかなくてはいけないと思います」。

研究はエンドレスだが、いまの仕事を完結して退官したいと先生は語る。
「退官までの目標としては、クラゲがどういった生物と共生関係を結んでいるか、少なくともアジア地域で明らかにすること。これがひとつのゴール点ですね。また、食用クラゲをタイとマレーシアでちゃんと調べること、それから、トラフグにつく寄生虫の研究では、なぜトラフグを選ぶのかを物質的に明らかにする。この3つですね」。

さらに、できるだけ弟子を作りたいとも。「クラゲの研究では、いい学生をたくさん得たおかげで、研究がどんどん進んでいます。
また現在、マレーシアからの女性の留学生がいますが、彼女は母国の養殖場の寄生虫の研究のために学んでいます。もっと多くの学生の皆さんに参加してもらいたいですね」。
 
大塚 攻 教授

オオツカ ススム
国立大学法人 広島大学大学院 海域生物圏フィールド科学研究室 教授

2013年6月15日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦